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2012/09/30

心に降る夕闇

生きている実感というものを何時からか失った時から、痛みや苦しみという感覚は、常に身に纏った衣服のような不可思議な体感を覚えている。なぜかしら、苦しみ喘ぐ自らの吐息さえ、どこか現実味の薄い他人事のようにすら思えるのだ。

母が亡くなって一年が過ぎた。最も信頼をし心の支えになっていた存在が消えてから、父に悩まされ兄弟とは反目し合い、僕は否応なく孤独へと追い込まれた。
それは、決して光の届かない奈落の底であり、夜明けの訪れない夕闇に閉ざされたかの如くであった。
僕はただ、「今」という時を暫定的に生きているに過ぎないのだと、自分に言い聞かせた。最早、「死」は、僕の心を癒し、静かに、そして優しく寄り添ってくれる友人であるかのような存在に変貌していた。唯一、永遠に続く安らぎの象徴として。

人の生きる意味が何であるか。これに考えを巡らす時、必ずといっていいほど出口は見つからない。ただ、生まれたから生き、僅かな喜びや楽しみの為に、長く続く苦労に耐え忍ぶ。その結果が呼び起こす空しさや脱力感は、これまでの人生において、嫌というほど繰り返し味わってきた。

人の温もり、溢れる生命力、たったひと時の癒し。そういった求め続けていた全てを凝縮した存在が、美少女アイドルだった。
穢れない未完成で純真な魂に触れる時、心は清々しい清涼感に満たされ、重苦しい憂鬱さはどこかに吹き飛んでしまう。
彼女らは、いつでも輝かしい未来に向け努力を惜しまず、ある種、擬似的な人生観と幸福感を僕に与えてくれた。彼女達の境遇と、自らのそれがかけ離れていればいるほど、より希少で眩しく映ったのだ。
押し潰されそうな現実の暗闇に戻る時、いつも僕は孤独の中で手探りし、そこに何も無いことを確かめる。まるで、自分だけに許された奇妙な儀式を執り行うようにして。

ただ、そこに居て欲しかった。心のどこかで孤独を恐れていた。愛情を感じても、どう応えていいのか分からなかった。
悲しみや寂しさを、どうすることも出来ず持て余していた。切なく痛々しい記憶を、意味もなく反芻していた。いくら探しても、なんの生き甲斐も見つけられなかった。
何も見えず、何ひとつ変わらずに堕ちてゆく自らの運命を脱したいと藻掻くほどに、得体の知れぬ泥濘に埋もれ、為す術を失っていく。
振り絞る気力は途絶え、やがては生きているという感覚さえ意識から遠のき、何もかもがぼんやりと霞みがかってくる。
癒しを求める放浪者。その行方は、もう誰にも分からない。

透明に澄んだ秋の空に真っ赤なインクを滲ませるようにして、あの夕刻は訪れる。深い闇の底に導かれるままに、果てしない時の階段を降りてゆくにつれて、心を凍てつかせるあの冷たい情感が満ちてくる。
いつまでも、そして着実に刻む不遇の物語を経て。降りしきる氷雨のように、微かに波打つ慟哭が胸の底から染み出して僕を狂わせる。
頬に感じた雨滴の感触は、闇に覆われて見えなくなった悲壮感を思い出させる、心に降る夕闇であった。

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