ももち論最終章 大いなる眠れる魂
盲目であることは、永遠に続く静かなる時であるはずだった。今、こうして瞼を閉じれば、ただひたすら恐怖という漆黒の暗闇に覆い尽くされてゆく。
なぜ、僕はこれほどまでに畏怖の念に捉われているのか。怪しげに蠢く物体が、心の深淵に湧き出したあの時から、おぞましいまでの恐怖感に支配されてきたのだ。
そこに姿を現したのは、絶対的な存在であった。あらゆるものを贄とし、自らの血肉と化し果てしなく増大してゆく、血に飢えた化け物が降り立った。
もう、出口なんて見えはしない。僕の心身は絡め取られて、幽けし魂までもが、噴き出す鮮血と共に取り込まれてしまった。
何てことだろう。僕はもう、自らを憐れむことすら出来ない。
ももちよ、あなたは今、僕の目の前にいる。
狂おしいほどの歓喜、沸き立つ鼓動、ざわめく不安、そして押し寄せる悲しみ。この慟哭までも、あなたの供物となったのだ。
ささやかな人生を望み、安らかな死を願っても、あなたは呪われた運命を手繰るように、地の果てへと引き摺り込んでいった。
運命を捧げた日々が、苛烈なる恍惚の時だった。
大いなる眠れる魂、アイドルモンスター嗣永桃子が、痛ましい惨劇の時に今、終止符を打つ。
アイドルという概念を今一度、再認識させた多大なる功績。
あくまで正統派たる可愛さをアピールする為、利用出来るものは全て駆使し、計算し尽くした自己演出を展開したももち。
それは時に、異端過ぎるが故、孤立を招き、人間関係の衝突をも水面下で感じさせた。むしろ、そうした環境を自ら進んで作り上げた気配すらある、飽くなき向上心が際立つ。
僕の肩までどっぷりと浸からせた、魅惑的なももちの世界観。
終息の時を迎えようとしている今だからこそ、もう一度、あの
枯渇し荒ぶるアイドル魂の軌跡を振り返ってみたい。
全ての始まり、Berryz工房結成にあたり、最も端的な感情表現である「涙」から、ももちの世界が産声を上げた。
デビュー当時、体力不足によりレッスン中に涙する場面があった。この挫折で流した涙が、ももちの最後の純粋さだったと認める。この時、ももちを慰めた舞波は劣等生的存在となり、重要なキーマンとなっていった。
やがて、みやさきとの確執、千奈美への敵対心を経て、疎外された舞波を傀儡とするももち。卒業コンサートで見せ場を奪う等、最後まで巧みに利用した感があるが…総じて情け深く、牙を剥くことはなかったと今にして思える。なぜか?
欲望のまま走り出した怪物は、舞波という哀れな小動物を喰い殺すのを、ほんの一瞬躊躇ったのだ。アイドルとして咲き乱れるために、化け物と化したももちの、最後の人間らしさである。
メンバー内で浮いた存在となったももちだが、飽くなきアイドル魂は燃え盛ることを決してやめはしない。
孤独は、人をけだものに変える。どす黒い憎悪を胸に抱えたまま、マイナスのエネルギーをアイドルアピールに注ぎ込んだ、ももちの巧みな錬金術に驚愕する。
DVDマガジンなどでお馴染みのゲームで、常に失敗を心がける不可思議な挙動。「ベリキュー!」では、ゲームに勝てないと見ると、いち早く勝負を投げ「負けて可哀想な女の子」アピールに卒なくシフトする。
他のメンバーは、「またか」と少々呆れ気味だが、ファンの視点からすれば瞬く間に魅了され、ことごとく思惑通りになっているのだ。
アイドルにとって、ファンの存在が最重要。ファンサービスこそが、自身の存在を訴える最大の機会だと、無論ももちは知り得ている。
コンサートMCでの、ももちの佇まいは異様である。そこには絶妙なタメがあり、声援を送るファンに向けての感情の高まりを、全身で表現するかの気迫に満ち満ちている。
ファンと握手する時、ももちは急角度の前傾姿勢となり、必ず
上目遣いで引き込むように握手する。その握力は非常に強力であり、両手で握り締めた手を高速流しの中にあっても、限界まで離そうとはしない。
ももちの企図するものは、アイドルが夢を与えることで人々を魅了し、熱烈に応援するファンが生まれ、それに惜しみない感謝で答えるというコミュニケーションの確立にある。
変わることなき王道を踏襲することで、認識の甘い軽はずみな現代のアイドルに、原点回帰を訴えたのだ。
あの惨劇の日々がまるで幻だったかのような、荒涼とした空間。眼前に、ただ果てしなく広がっている。
呼び起こされた悪夢は過ぎ去ったのではなく、心の奥底に刻まれた刻印。引き裂かれた傷跡が身悶えるがごとく、やるせなく疼く。
ももちよ、約束の時は来たれり。深く永い眠りについた怪物は、記憶の底で静かに横たわり、今も呪縛を解くことはない。
心身をざくろのように切り刻まれるかの、壮絶な痛みを思い出す。あの痛みだけが、唯一、僕の心を掻き乱した。
大いなる眠れる魂。捕食された我が生命は、永遠にあなたと共にありて。
参照リンク
ももち論 神の小指
ももち論 轟く咆哮
ももち論 嗣永プロの野望
ももち論 血の刻印
ももち論 遠ざかる旭日
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コメント
深いですね。。。
まさに初期から桃を見てきた方の記事です☆
僕は残念なことすでに出来上がった?プロ桃子(いや・・・桃は生まれながらのプロでいいんですよね?)
桃のように恐ろしいまでのプロフェッショナル魂を持った人には、会えないんですかねー
桃はいろんな意味で禁断の果実だったんですね・・・僕は怖くて口に出来ませんでしたが(涙
投稿: 館の主 | 2008/10/27 00:32
深いといいますか、のめり込んだのは確かですねぇ。
人間関係の部分はほぼ妄想ですが、それだけ掻き立てる魅力的なキャラクターでした。
プロという点では、桃子はもちろんですが、メンバーそれぞれが成長しアイドルとして円熟期に入ったと思います。
反面、あどけなさや純粋さが薄れ、徐々に心が離れていくようです。
けれど、桃子のアイドル魂には、大いに感銘を受けました。
この偉大な精神を受け継ぐ子が現れるのを、祈るばかりです。
投稿: santa | 2008/10/27 22:09
恐るべき妄想と現実直視ですね。
恐れ入りました。
(笑)
投稿: 茨城飛鳥 | 2008/11/27 05:02
コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、まさに妄想のなれの果てに辿り着いた暗黒世界です。読み返してみると、我ながら病んでいるなと、つくづく思いますねぇ。。
まあ、それだけ桃子の影響力が凄かったのだと。
いつか遠い過去となっても、記憶にしかと刻まれました。
本当に偉大なる存在です。
投稿: santa | 2008/11/28 01:00